J1昇格プレーオフ。山形は勝ち続けることで“勢い”を加速させた

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|リーグ6位から山形が掴んだJ1昇格の切符
ホイッスルが寒空の味の素スタジアムに鳴り響いた瞬間、ピッチ上の青いユニフォームを纏った山形の選手たちは拳を天高く突き上げ、黄色いユニフォームを纏った千葉の選手たちはガックリと肩を落とし、目を伏せた。

シーズン6位というギリギリの順位でJ1昇格プレーオフに臨むことになった山形。準決勝は4位のジュビロ磐田とアウェイで戦い、決勝は千葉のホームからほど近い東京の味の素スタジアムで戦った。いずれの試合も山形にアドバンテージはなく、勝たなければ次に駒を進めることはできない厳しい条件。はっきり言って、ルールの上では“断然、山形不利”の状況だった。

しかし、いざ蓋を開けてみれば山形には恐ろしいほどの「勢い」があった。プレーオフ準決勝の磐田戦では先制ゴールを奪い、前半終了間際に一旦は追いつかれるも、試合終了直前のCKにJリーグ史上初となるGK山岸範宏のヘディングシュートで勝ち越すという劇的な“うっちゃり”で磐田に勝利した。そして迎えたプレーオフ決勝、千葉との天王山では山﨑雅人が37分に挙げたヘディングシュートの1点を守りきってJ1への切符を手にする。6位からの大逆転昇格は、まさに下剋上というフレーズがピッタリだろう。

山形は前線から執拗に相手のボールホルダーを追い回し、スッポンのように食らいついて離さない守備で千葉を苦しめた。結果的にチーム屈指のパサーである宮阪政樹のクロスから、山﨑雅人が決めたヘディングシュートが決勝点になったが、勝利を支えたのはチーム全体で発揮したハードワークであることは間違いない。特に中盤で“潰し屋”に徹していた松岡亮輔の球際の強さは、相手陣内でピンチをチャンスに転じる武器となっていた。この千葉戦で見せたハードワークや体を張った守備は、決して珍しいものではない。徳島の小林伸二監督、松本の反町康治監督とともに“昇格請負人”として知られる石崎信弘監督が、1年間をかけて築き上げてきた普段通りのサッカーであり、シーズンを通して実践し続けてきたいつも通りのミッションをこなしたに過ぎない。ただひとつ、これまでと異なっていたことは、いつも以上にこの試合に臨む山形には「勢い」があったことだ。

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|緊張感のあるゲームがチームを成長させた
11月に入って以降のJ2リーグ戦は第39節からの4試合。山形は第39節に熊本、第40節に福岡、そして第41節に磐田を破って一気にプレーオフ進出に近づいた。最終節となった第42節の東京V戦はプレーオフ進出を意識しすぎたのか、立ち上がりから硬さが目立って1-2で敗れたが、足踏み状態でもたつくライバルたちを尻目に6位に滑り込んだ山形は、試合を重ねるごとにチーム全体が勢いづいていったことは想像に難しくない。加えて、11月26日には天皇杯準決勝の千葉戦に3-2で勝利している。プレーオフを前にした直近の試合で磐田、千葉のライバル2チームに勝利した流れは、山形に力と勢いをもたらした。同時に東京Vに敗れたことも山形には良い作用に働いたように感じる。勝ち続けることは勢いにつながる反面、連勝しすぎるとかえって見えないプレッシャーにつながることもある。ライバルに勝ち、順位争いには関係しない東京Vに敗れたことは、結果的に大一番を前にしたチームを引き締めることにつながっただろう。もしかすると、シーズン終盤から山形はJ1昇格に向けての流れを掴み始めていたのかもしれない。

昇格を決めた千葉戦後、今季からチームに加わったGKの山岸は「チームメイトなどから聞いた話」として、ここ数年はプレーオフ争いに絡めなかった状況から「シーズン終盤に緊張感のある試合ができていかなった」現状があったと言う。

しかし、今年に関しては「プレーオフ圏内に入ってからのJ2リーグの第36〜7節からの終盤以降は緊張感のある試合だった。やはり勝っていくということは、選手個々にとってもチームにとっても非常に大きな財産になると思います」と勝つことの重要性を語り、「そこで負けてしまうと、緊張感のある試合を経験した積み重ねよりも悔しさの方が上回ってしまうので、なかなか先のステップへのきっかけになっていかない」とも続けた。
この山岸の言葉は山形の選手たちの多くが実感したことであり、周囲で見ていた者たちも感じていたことだろう。試合を重ねるごとにチームのハードワークは凄みを増し、もともとJ2では上位クラスだった攻撃陣も破壊力を増していった。勝って順位が上がり、プレーオフ圏内に絡んでくると守備陣も高い集中力を発揮した。これまでと同じような守備をしているのだが、以前は出なかったあと一歩が出るようになる。それは勢いがもたらしたプラス効果のひとつだろう。

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|勢いの恐さと先制点の重要性、そして歴史は繰り返された
山形に敗れた磐田や千葉に油断があったわけではない。ドローでも勝てるルールは小さな油断を生む可能性はあるが、少なくともプレーオフで見せた彼らのプレーからは、自分たちが優位に立っているというゆとりは感じず、90分を通して戦う姿勢と気迫を感じた。

では、勝負を分けたものは何だったのか。磐田、千葉ともに立ち上がりのスコアレスの状態から落ち着きを感じられなかったところにカギがあるように思う。確かに立場の優位性にあぐらをかけば、油断につながることは明白だ。しっかりと守備から入って山形のプレッシングを抑えられることができれば、山形は時間の経過とともに焦りを感じ始め、攻守に綻びを生じさせられる可能性は十分にあった。

しかし、磐田も千葉も結果的には前半で山形に失点を喫してしまい、山形に与えたかった焦りを自分たちが感じ始める。すると、普段ならきっちりとつないでいるであろうパスは微妙にズレを生じ、シュートも枠を捕らえることができない状態に陥った。迫力のある攻撃を仕掛けながら精度を欠き、得点機を阻止されるたびに、かえって山形守備陣を乗せてしまったのだ。それは、改めて勢いのあるチームの恐さ、先制点の大切さを結果として如実に示している。

勝負の世界における妙薬は“勝利”であり、下剋上を成し遂げるための最大の援軍は“勢い”である——。
それは、2012年から今回で3回目を迎えたJ1昇格プレーオフの歴史が物語っている。2012年はリーグ6位の大分と同5位の千葉が決勝を戦って大分が昇格を手にした。2013年はリーグ3位の京都と同4位の徳島が順当に決勝まで勝ち上がったが、最後は4位の徳島が勝って下剋上を成し遂げている。そして、今年もまたリーグ6位の山形が昇格を果たしたことで、再び歴史は繰り返されることになった。
リーグ戦はもとより、ナビスコカップとも天皇杯とも違う。この独特なJ1昇格プレーオフというのは、ある意味で残酷な、そして常識の通用しない大会と言える。妙薬と援軍を手にした山形は来シーズン、より厳しいJ1リーグに挑むことになるが、山岸の言う通り今回の経験は苦難を乗り切る上で大きな糧となるだろう。

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(文/宮坂正志)


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