SELECT01/コトダマ

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Jリーガー24人を変えた金言集
|その言葉は彼らをどう動かし、変えたのか

日常、何気なく使っている言葉。人間同士のコミュニケーションとして喜怒哀楽を伝えることはもちろんだが、時に意味のないものであったり、時に相手を思いやったり、時に人を傷つけたりもする。言葉は便利なようで、難しい。

しかし、そんな言葉のひとつが大きな活力となることもある。自分の中で眠っていた魂を揺さぶり起こすこともある。そして、その後の人生に訪れた転換期に大きな影響を与え、今なお心の支えとなっているものもある——。

講談社から刊行されている『コトダマ —蹴球魂 Jリーガーを変えた一言—』(インタビュー・文・写真/佐野美樹)には「きっかけはあなたがくれたあの言葉。」という副題が付いており、24人のJリーガーたちがそれぞれのサッカー人生において転機となった“一言”を挙げ、それについて普段のピッチでは見られない素顔を垣間見せながら語ったインタビューをまとめた一冊である。ベースとなっているのは、講談社のマンガ雑誌『モーニング』で大好評を博していた「蹴球魂+1 金言編」。同雑誌で連載されている人気マンガ『ジャイアントキリング』を描いているツジトモ氏がカバーイラストを担当している。

サッカーをはじめ、スポーツの現場を中心にカメラマンとして活躍する著者が、書籍内の撮影はもちろんのこと、インタビューから執筆までを担当。女性ならではということもあるだろうし、作家・ライターを本職としていない著者だからこそということもあるだろう。その文体からは、いわゆるガチガチのインタビューという雰囲気は伝わってこない。ピッチでは厳しい表情を見せる選手たちが、どこかフランクに、どこかリラックスして打ち解けた中でありながら、真剣に自身に影響を与えた言葉について語っているのが印象的だ。

そのため、読む側も書籍でありながら肩ひじ張らずにスラスラと読める文体で、雑誌の記事のように読めるというのもこの本の特徴と言える。堅苦しい文章は頭に入ってこない、小難しい話は印象に残らない……そういった心配は、この本にはない。インタビュー対象の選手たちの細かな仕草や表情に関する記述も、臨場感にあふれている。まさに、読者が同じ空間に座って選手たちの話を一緒に聞いている感覚になる、そんな一冊だ。

内容について少しだけ触れるならば、プロサッカー選手である彼らが影響を受けた言葉は、日常の中に存在していることを改めて思い知らされる。家族や学生時代の恩師、あるいはプロになってから監督やコーチからもの、なかには歌のタイトルなんてものもある。厳しいプロの世界で戦う人たちであっても、影響を受けるきっかけとなった言葉の発信源は、我々と何ら変わりがないと言えるだろう。と同時に、プロになるような人たちはその言葉の受け止め方、言葉に対する感度の鋭さをも感じる。

著者はあとがきで、インタビューする際に一つだけ必ず選手たちに「サッカーをやめたいと思ったことはあるか」と問いかけたという。確かに“好きこそものの上手なれ”、プロになるほどだからサッカーが好きなのは当たり前だ。しかし、そんな人たちにも好きで歩んできた道から外れ、歩みを止めようと思った瞬間があるのか、という問いは非常に興味が湧いてくる。その答えは本書に譲るが、聞けそうで聞けないこと、文字通り選手たちの“知られざる真実”ものぞき見ることができると言えよう。

この本は、自分に影響を与えてくれるような言葉に出合いたい人だけでなく、これから言葉で他人に影響を与えるべき人たちにとっても大いに参考になるだろう。女性の視点で書かれているため、W杯でサッカーが好きになった女性ファンたちにも気軽に読めるだろう。そういったサッカーファンのみならず、そして年代にも関係なく、本人たちが自分の言葉で語っている、ある種の“Jリーガーたちの短編伝記集”といった感じで読んでもらいたい一冊だ。

『コトダマ —蹴球魂 Jリーガーを変えた一言—』
インタビュー・文・写真/佐野美樹
カバーイラスト/ツジトモ
講談社 1,000円(税別)BOOK_REVIEW01_02


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